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京都家庭裁判所 平成元年(少)1432号 決定

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第1  Dと共謀の上、平成元年5月9日午前5時ころ、大阪府枚方市○○×丁目××番地○○団地前駐輪場において、B所有の自動二輪車1台(時価60万円相当)を窃取し

第2  Aと共謀の上、同月19日午前4時15分ころ、京都府八幡市○○×番地において、同所に設置された飯料水自動販売機内からG所有の現金約6000円を窃取し

たものである。

(適用すべき法令)

いずれも刑法 60条、235条

(処遇の理由)

少年は、昭和60年(中学1年生)ころから不良性のある友人とつき合いはじめ、バイク盗、万引などの非行をし、児童相談所の指導を受けたものの、シンナーの吸引や継続的不登校状態など問題性が次第に深化し、昭和62年9月、自動車盗、バイク盗により保護観察となった。しかし、中学校卒業後も定職につかず、無免許運転、万引、置引などの非行を繰り返し、昭和63年7月及び平成元年1月の2度、試験観察となり、なお引き続き保護観察による指導を受けてきた。そして、同年3月29日前件について不処分(別件保護中)の決定を受けた後も1週間で仕事をやめ、不良交友、夜遊び、シンナー吸引などをしながら無為の生活を続け、本件各非行に至った。

本件各非行についてみると、第1の窃盗は、関与形態は消極的であるものの、二輪車窃盗として過去の非行と類似する行為を反復したものであり、第2の窃盗は、少年において実行行為をするなど積極的に関与したものであり、いずれも情状芳しいものとは言えない。また本件各非行の背景には、知的能力及び体力が劣り、かつ、基本的しつけが身についていないため職業生活に適応できないという少年の資質上の問題、無気力で自己抑制力が弱く、不満耐性も育っていないという少年の性格上の問題が根深く横たわっている。そして、少年は前件審判終了後短期間で本件各非行を累行したものであり、本件審判時点においても、少年自身の問題意識は低く、非行に対する抵抗感、罪障感が薄いものであって、今後とも本件と類似の非行を繰り返す危険性が高い。これらの点に照らすと少年に対しては、根本的な矯正教育を施す必要性が強い。

ところで、家庭の状況をみると、父は少年が2歳のころ死亡し、少年において勤勉さを学ぶ機会なく成長したものであるところ、母は定職もなく、少年の問題点を把握し適切な指導方針を立てておらず、同女に対し、範として少年に勤勉さをみにつけさせるごとき強力な指導、監護を期待することはできない。これに加えて、これまでの長期間の保護観察及び2度にわたる試験観察によっても少年の非行性を除去するに至らなかったこと、現在少年はシンナーへの依存性が相当進行しており(鑑別所入所時にも幻覚があった。)、早急にこれを断絶すべき必要性が高いことを考慮すると、これ以上在宅の処遇を継続することは適切さを欠くものである。

しかし、少年には、他人の指導を素直に受け入れる構えがあり、誘惑を断ち切った環境において、基本的な生活習慣等について基礎からの指導、教育を施せば、前記資質上、性格上の問題点が改善するものと期待することができる。

したがって、少年に対しては中等少年院に送致するのが相当であると思料する。なお、少年の資質上、性格上の問題点の根深さ、シンナーへの依存性の深さに照らし、短期処遇では十分な効果が得られないと考えられるので、短期処遇の勧告は付さないこととする。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項により主文のとおり決定する。

(裁判官 戸田久)

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